WEBサイトやサービスに備わっている機能は、デザイナーや開発者が当初意図したものと違う目的で使われることがある。それを自覚させたのはデザインもしくはテクノロジー関係の記事ではなく、ある裁判の判決を伝える社会面の新聞記事だった。
「いいね」機能
SNSに必ずある機能「いいね」。ツイッター、インスタグラムではハート型のボタン、フェイスブックだと親指を立てたボタン。そのデザインからも見て取れるように、デザイナー・開発者は「いいね」機能を、他者の投稿内容へ称賛を示すものとして用意したはずだ。
ところがユーザーは好意的な感情がなくても「いいね」を使うことがある。これは筆者が憶測で書いているのではなく、裁判の判決で言及された話だ。
ツイッターで、ジャーナリストの伊藤詩織さんを誹謗・中傷する投稿に対し、自民党の杉田水脈議員が「いいね」を繰り返し押していた。裁判は、その「いいね」行為が名誉棄損にあたるとして伊藤さん側が損害賠償を求めたものだった。
裁判の焦点
投稿を拡散する「リツイート」に関しては「名誉毀損に当たる」という判例はあったが、「いいね」についての訴訟は珍しく、行方が注目されていた
東京高裁で2022年10月20日、その裁判の判決が出た。結果として杉田議員の「いいね」は違法な侮辱行為と判断された。判決を伝えた記事の中で私の目に止まったのは、判決そのものではなく、司法がSNSの「いいね」をどのように捉えているかという点だった。
判決で示された「いいね」機能の解釈
まず1審の判決内容。
「称賛などの強い感情から、悪くないなどの弱い感情まで幅広く含んでいる」と指摘した。「『いいね』自体からは感情の対象や程度を特定することができず、非常に抽象的・多義的な表現行為にとどまる」
「いいね」はどのような感情のもとクリックされたか断定できないと判断された。
さらに2審では
「いいね」が多義的だという考え方は(註:1審判決と)一致する。杉田議員が主張していた(読み返すための)「ブックマーク」として使う目的も認めている。
なぜ判決は覆ったのか 伊藤詩織さん勝訴にみる「いいね」の意味 / 毎日新聞2022年10月23日
と、具体的に「ブックマーク」として使われる可能性にも言及している。
デザイナーの意図しない使われ方をする機能
先に書いた通りツイッターのデザイナーや開発者は「いいね」機能を言葉通り称賛を示すものして実装したはずだ。ところが実態としては「いいね」が使われたときの感情の程度は断定できず曖昧であり、ときにはブックマークの代わりとして利用されることすらある。
ユーザーはサービスの機能を当初デザイナーが意図した通りに使わないことがある。「いいね」に限らず今後、新しいサービスやWEBサイトに何か機能を盛り込むとき、デザイナーはそのことを意識したほうがよい。すくなくともハートマークのボタンなどは避けたほうがよい。